scene 03 A-part|微笑みに潜む影
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朝の食卓。
本来なら何気ない時間のはずなのに、向かいに座る姉の様子は普段と違って見える。
ふとした拍子に、視線がこちらに向かっている気がする。
目が合いそうになっても、すぐに逸らされる。
――気のせいだろうか。
けれど、その繰り返しが胸の奥にざらつく感覚を残していく。
昨夜のことが頭をよぎる。
もしも――あの場を見られていたとしたら。
姉のショーツを先端に巻きつけ、ブラジャーに顔を埋め、必死に自慰に耽っていた瞬間を。
その持ち主である姉に気づかれていたとしたら。
考えるだけで背筋が冷たくなる。
確かめたい。
だが、真正面からは聞けない。
だから自然を装って投げかけた。
「……昨日の夜、起きてた?」
疲れていたからすぐ寝た――そう言った姉の返答に安堵を覚えながらも、その笑顔にはどこか作り物めいた気配があるような気がした。
それでもその笑顔はいつものような可憐さも帯びており、見ているだけで胸が締め付けられるようだった。
scene 03 B-part影を隠す微笑み
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翌朝。
食卓に座る弟は、何事もなかったかのように落ち着いていた。
カップを口に運び、静かに飲み下す仕草。
それを見るだけで、昨夜、吐息を荒げて身を震わせていた姿が重なってしまう。
平然とした顔と、恍惚に歪んだ顔が交互に胸に浮かび、心臓を締めつけた。
目の前にいるのが本当に同じ人間なのか――信じられなかった。
胸に広がるのは、不安というよりも恐怖に近い感情だった。
――あの下着は、いまどうなっているのだろう。
すでに洗濯されているのかもしれない。けれど、昨日の出来事の痕跡も、私の記憶に刻まれた光景も、消えることはない。
一晩で穢れの象徴へと変わってしまった。もう二度と肌に触れられない――そう思うだけで、胸の奥が痛んだ。
その痛みはすぐに広がり、大切にしていたお気に入りを私の知らないところで汚されたという事実が重なって、胸を締めつけるような苦しさはやがてどうしようもない悔しさへと変わっていった。
私は努めて普段どおりを装った。
けれど無意識のうちに、視線が何度も弟へ吸い寄せられてしまう。
動作のたびに、気づけば彼を目で追っていた。
そのたびに慌てて視線を逸らすが、心臓の鼓動は早まる一方だった。
そして不意に、弟が口を開いた。
「……昨日の夜、起きてた?」
ただそれだけの何気ない問いかけ。
けれど私には、まるであの場で見ていたことを確かめられているかのように響いた。
胸が跳ね、一瞬息が詰まる。
それでも笑顔を作り、
「ううん、昨日ちょっと疲れてたから、すぐ寝ちゃった」
そう答えながら、ふと不安がよぎる。
――私の笑顔は、いつもと同じように見えているだろうか。
その返答を耳にした弟は、わずかに肩の力を抜いたように見えた。
安堵の気配が、その表情の端にかすかに浮かんでいた。
